4:《もしも君が泣くならば》


入学式、おきまりの挨拶で始まり、校長の長い話。土方は欠伸をこらえながら椅子にもたれる。横の銀時ときたら思いっきり寝ている。
そういえば。
沖田は一年だ。
あいつのことだから、またなにかやらかすのではないかと思ったが、意外にも大人しくて。

わいわいと喋りながら歩く新入生の群れのなか、一人、ぽつんといる栗色を見た。

午後の部活説明会も、見学会も、沖田の姿はなかった。

「あっれ−総悟来てないの?おかしいなあ。剣道部入るって言ってたのに。」
近藤が言う。

「なあトシ。家帰ったら総悟の様子見てあげてよ。総悟みたいないい子がサボる訳ないし…なんかあったのかも…」

「あ?あれのどこがいい子なんだ近藤さん。」

そう言い返しながらも、帰宅後、土方は沖田の家の前にきていた。
なんだかんだで気にかけているような気がしてため息をつく。

チャイムを鳴らすが反応はない。

「土方だ。入るぞ。」
鍵がかかっていないことに気付き、ドアを開ける。
がらんとした部屋には、粗末な布団と、竹刀が置いてあるだけで、家具らしい家具はほとんどない。申し訳程度に引越し屋の白い段ボールが数個あり、服や日用品が乱雑に入れられていた。
自分の住んでるのと同じ家のはずなのに、酷く空虚なそれに思わず息を飲む。
土方の部屋がある場所は、何も物が置かれていなく、埃を被っていた。
ここに人が住んでいる
それが信じられなかった。

枕元に綺麗に折られた手紙に気付く。背徳感はあったが好奇心には敵わず手紙を開く。

そーちゃん
私は最近はとても体調がよく、たまに庭を散歩したりしています。
寒くなってきたけど、風邪は引いてないでしょうか?
悩みの相談できるお友達はできましたか?
学校は楽しいですか?
私はそれだけが心配です。
今度、仮退院できるときにまた連絡します…

綺麗な字で長々と綴られた手紙。日付は去年のものだ。

「なに見てるんですかぃ」

突然後ろから声が聞こえて心臓が跳ねる。

「わ、わりぃ」
慌てて立ち上がる

「いいんでさぁ。」
意外。ふわり、笑う。



「はは、俺、この手紙、返事だせやせんでした。」
出す前に、死んだんですよ、姉上。

死ぬ間際の姉に嘘をついた。

友達もいるよ
心配事も少ないよ


「俺が小さい時から病気がちで、友達もいなくて。俺の心配ばっかしてたからねぃ。命擦り減らしてたんでさぁ。最期の最後まで。俺の心配なんて。ねぇ。
あんたには気付かれたくなかったけどしゃーねーや。」

力無く笑うその目には、何も映っていなかった。

「お前…」

何か言おう、言おうと思ったものの、頭が上手く回らない。

こいつは当たり前の幸せすら掴むことができないのだろうか?
この部屋で、差し延べられた手を払いのけ続けて、払いのけ続けて、死ぬのだろうか?
手は差し延べられている。ただ、受け取る術を知らない。

ならば、
俺がお前をこの部屋からだしてやる。
独りには、させない。






「明日は、部活来いよ。絶対。」

やっと絞り出た言葉がこんなものなんて。

「不法侵入してまで伝えたい言葉かぃ?それ」
土方のことを皮肉りながらも楽しそうに笑った。

学校では見せなかった、歳相応の笑顔。
ふいに沸き起こった独占欲。
その感情の答えはまだ出さない、いや、出せない。






「ねえ、土方さん。」
知ってます?

俺は「おい」とか「お前」じゃなくて、沖田総悟でさぁ。








わかってるよ、

「総悟。」

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