入学式、おきまりの挨拶で始まり、校長の長い話。土方は欠伸をこらえながら椅子にもたれる。横の銀時ときたら思いっきり寝ている。 そういえば。 沖田は一年だ。 あいつのことだから、またなにかやらかすのではないかと思ったが、意外にも大人しくて。 わいわいと喋りながら歩く新入生の群れのなか、一人、ぽつんといる栗色を見た。 午後の部活説明会も、見学会も、沖田の姿はなかった。 「あっれ−総悟来てないの?おかしいなあ。剣道部入るって言ってたのに。」 近藤が言う。 「なあトシ。家帰ったら総悟の様子見てあげてよ。総悟みたいないい子がサボる訳ないし…なんかあったのかも…」 「あ?あれのどこがいい子なんだ近藤さん。」 そう言い返しながらも、帰宅後、土方は沖田の家の前にきていた。 なんだかんだで気にかけているような気がしてため息をつく。 チャイムを鳴らすが反応はない。 「土方だ。入るぞ。」 鍵がかかっていないことに気付き、ドアを開ける。 がらんとした部屋には、粗末な布団と、竹刀が置いてあるだけで、家具らしい家具はほとんどない。申し訳程度に引越し屋の白い段ボールが数個あり、服や日用品が乱雑に入れられていた。 自分の住んでるのと同じ家のはずなのに、酷く空虚なそれに思わず息を飲む。 土方の部屋がある場所は、何も物が置かれていなく、埃を被っていた。 ここに人が住んでいる それが信じられなかった。 枕元に綺麗に折られた手紙に気付く。背徳感はあったが好奇心には敵わず手紙を開く。 そーちゃん 私は最近はとても体調がよく、たまに庭を散歩したりしています。 寒くなってきたけど、風邪は引いてないでしょうか? 悩みの相談できるお友達はできましたか? 学校は楽しいですか? 私はそれだけが心配です。 今度、仮退院できるときにまた連絡します… 綺麗な字で長々と綴られた手紙。日付は去年のものだ。 「なに見てるんですかぃ」 突然後ろから声が聞こえて心臓が跳ねる。 「わ、わりぃ」 慌てて立ち上がる 「いいんでさぁ。」 意外。ふわり、笑う。 「はは、俺、この手紙、返事だせやせんでした。」 出す前に、死んだんですよ、姉上。 死ぬ間際の姉に嘘をついた。 友達もいるよ 心配事も少ないよ 「俺が小さい時から病気がちで、友達もいなくて。俺の心配ばっかしてたからねぃ。命擦り減らしてたんでさぁ。最期の最後まで。俺の心配なんて。ねぇ。 あんたには気付かれたくなかったけどしゃーねーや。」 力無く笑うその目には、何も映っていなかった。 「お前…」 何か言おう、言おうと思ったものの、頭が上手く回らない。 こいつは当たり前の幸せすら掴むことができないのだろうか? この部屋で、差し延べられた手を払いのけ続けて、払いのけ続けて、死ぬのだろうか? 手は差し延べられている。ただ、受け取る術を知らない。 ならば、 俺がお前をこの部屋からだしてやる。 独りには、させない。 「明日は、部活来いよ。絶対。」 やっと絞り出た言葉がこんなものなんて。 「不法侵入してまで伝えたい言葉かぃ?それ」 土方のことを皮肉りながらも楽しそうに笑った。 学校では見せなかった、歳相応の笑顔。 ふいに沸き起こった独占欲。 その感情の答えはまだ出さない、いや、出せない。 「ねえ、土方さん。」 知ってます? 俺は「おい」とか「お前」じゃなくて、沖田総悟でさぁ。 わかってるよ、 「総悟。」 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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