6:《あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す》




朝練を終え、三年の校舎へとだらだらと歩く。

土方は沖田の強さに、嬉しさを感じる反面、同じスポーツをする者として悔しさも感じていた。
練習後のポカリもなんとなく美味しくない。

「ねえ。土方は沖田君とどうゆう関係?」
後ろを歩いていた銀時がふいに問う。

あまりに唐突な問いに、飲んでいたポカリを吹き出す。

「っ!!どっどういう関係ってなんだよ!!ただの隣人だよ!」
口元のポカリを拭いながら言い返した。

「ふーん。俺、沖田くん狙っちゃおうかな〜」

冗談なのか、本気なのか、にやりと笑いながら。

「馬鹿じゃねーの?
あいつ男だぜ。変な女にしかモテないからって頭沸いたのかよ。」やけにムキになって言い返せば、
「うるせーよ。漫画の眼鏡っこと同じで天パを取ったら開花するんですぅ。
…だって沖田君可愛いじゃん。沖田君なら俺抜けるわ−。」

「はあ?
もともとキモい奴は眼鏡取ったってキモいんだよ。でも私は眼鏡を取ったら可愛いかもしれないっていう心の切り札のために眼鏡かけてんだよ。お前の天パも同じだ。実際天パ取ったって大してかわんねーんだよ。」

「うわー。銀さんショック〜。辞めちゃおうかな、辞めちゃおうかな〜」

「おい!!!お前が辞めたら廃部なんだよ!!ふざけんな!!!」
土方がキレて銀時に掴みかかれば、銀時は鞄を振り回して対抗する。

そんないつもの二人の喧嘩を周囲は冷めた目で見ていた。





三年の土方達が、三年の校舎へ向かい、沖田は反対側の一年の校舎へ一人で歩いていた。
廊下で何人かの同級生に会うが、格段仲の良い人なんていないので声もかけずに足早に歩く。

土方に朝、無理矢理起こされたので眠い。それにあまり体力のある方ではないのに朝練や引越しなどが重なった。だから、身体が重いし怠い。
でも、なんとなく悪い気はしなかった。

だけどやっぱり疲れてるし、午前の授業はサボろうかなあなどと入学早々ふざけたことを考えていた。



ホームルームで出席だけ取り、一時間目が始まるまでの間に教室を抜け出す。

屋上への階段の場所は、入学式の日にチェックしたし、鍵が壊れていることも確認済みだ。
昔から、さぼりと悪戯に関しては抜目ないと自信があった。


近藤が用意してくれた、誰かのお下がりのぺたんこの鞄を抱えて、廊下を走る。
階段を駆け上がり、屋上に出た。

今日は気温こそそこまで高くないが、陽射しがあって気持ちいい。真ん中あたりに行くと寝転んで空を見る。

雲の動きを目で追ったり、飛んでくる鳥を数えたり。昔から一人ぼっちのことが多かったから、一人で時間を潰すのには慣れていた。

目を閉じて、風の音を聴いたりしているうちにいつのまにか眠っていたらしい。
目を開けたら太陽がだいぶ高い位置にきていた。
「もう昼かねぃ」
一人呟き伸びをして、体を起こした。


その瞬間、誰かに襟を掴まれ、持ち上げられる。
「うぇ」と情けない声をあげ、為す術もなくよたよたと立ち上がった。
手を振り払い、後ろを見れば、自分と背丈の変わらない、眼帯をつけた男が睨んだ。

目と目が合う。何故か身動きがとれなくなる。土方も目つきが悪い。しかしこれとは別物。
心の中まで見透かされるような感覚に、恐怖すら覚える。

声を発することもできず、硬直している沖田の頬に、そいつは手を伸ばした。
顔の輪郭を確かめるように、頬を撫でる。その手は冷たく、くすぐったいような感覚に肌が粟立つ。

「一年か?」
それは唐突に言った。

喉が掠れて、声らしい声が出ないから、こくんと頷く。

「へえ。」
興味なさ気に呟き、目を細める。
そして沖田の唇に人差し指を当て、感触を楽しむかのように指を押し付けた。

「気をつけた方がいいぜ、お前。」
くつくつと笑う。

唖然と立ちすくす沖田を残し、そいつは屋上を去った。


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