「おい、総悟どうした?浮かない顔して。」 放課後、部活へ向かう途中、土方に聞かれた。 今日の屋上でのことが頭をよぎる。 だけど、なんとなく土方には言えない内容のような気がして、開きかけた口を閉じた。 「なんもないでさあ。ちょっと疲れてて。」 あながち嘘ではないだろう、と心の中で言い訳して。 「へえ。無理すんなよ。」 そのまま並んで部室へ向かう。 部室は一年が体験入部にきていたので、朝よりも少し活気があった。 土方が人数を数えればざっと10人。近藤が話していた、この学校の教師の志村妙の弟もいる。 「意外に来たな。まあ、夏までに半分残ってりゃ上等だな。」 一人呟いて、点呼を始めた。 三年の出席者に丸をつけながら、横でだらしなく立っていた銀時に問う。 「高杉。高杉はまだ治らねーのか?」 「あぁ。あいつ。知らない。」 興味なさ気に頭をぼりぼり掻いた。 「知らないじゃねーよ。一応幼なじみなんだろ。」 「あ−。でも眼、良くないの昔からだし。治る治らないのアレじゃないんじゃねーの。普通にサボってるだけだろ。 ってゆーかヅラは?」 「桂は委員会。」 何気なく話を逸らされ、少し不満げに。 沖田は着替えながら、なんとなく二人の会話を聞いていた。 眼が良くない もしかしたら。 あの眼帯の男がそれなのだろうか? まさか。 頭の中でぐるぐると土方の言葉と男の顔が浮かんでは消えた。 部活が終わり、汗ばんだジャージから制服に着替える。 疲労に蝕まれている体は重たくて、のろのろと着替えていた。 「おい、総悟。早くしろ。」 いらいらと土方が言う。 「へーい。腹減ったー。死ね土方。」 「うるせえな、なんで俺が死ななきゃなんねえんだよ。俺も腹減ってんだよ。だから早く着替えろって。」 「すいやせんねぃ。ところで今日の夕飯なんだと思いやす?死ね土方。」 「おィィィィィィィ!!!口癖みたいに語尾につけんのやめてくんない!? …夕食か。魚とかじゃねえの?なんでだよ。」 ロッカーにもたれ、鍵をくるくると回しながら土方が問う。 「いや、ただ聞いただけ。死ね土方。」 「そうか。死ね沖田。」 不毛なやりとりをしながら、ふと沖田の方を見れば、まだワイシャツのボタンを半分くらいしか留めていなかった。 「おぃ、てめえ。そんだけかかってまだ全然着替えてないじゃねえか。」 土方が指をさせば、沖田は白いワイシャツに、下はトランクス。 生白い脚が、薄暗い部屋の中でぼやりと浮かぶ。 「第一、なんでお前全部脱いでから着替えるんだよ。風邪引くだろ。」 「あー、確かに。」 当たり前のことなのに、やけに関心したように言ってズボンを手にとる。 「早くしろよ。」 沖田から目を逸らし、心中穏やかじゃないことを悟られぬよう、出来るだけ素っ気なく言った。 俺は馬鹿か。 あいつは男だぞ。 今日、銀時に言った台詞がそっくりそのまま、自分に降り懸かってきていることに呆れる。 高鳴る鼓動を落ち着かせるように、深く息をした。 沖田がやっと着替え終わった頃、サボった罰で体育倉庫の片付けをやらされていた銀時が入って来た。 「あれ、沖田君じゃん。今帰り?遅くない?」 沖田の姿を認めるなり、顔がぱっと輝く。 「そうでさあ、旦那。」 「ふ−ん。そうなんだ。」 「おい、総悟。帰るぞ。」 二人の会話を遮るように土方が手を引く。 「沖田君。」 銀時が呼び止める。 「もうだいぶ暗いし、送ろうか?」 へらりと笑った。 「や、生憎土方さんがいるんで今日は大丈夫でさあ。ありがとうございやす。」 「生憎ってなんだよ生憎って。ほら、帰るぞ。」 「でも大串君ち、坂やばいじゃん。チャリでニケツ大変じゃない?俺、原チャで余裕だから。まじで送るよ。」 土方の肩を掴んだ銀時の目は笑っていない。 朝のことを忘れてはないだろう?とでも言いたいのだろうか。 「別に大丈夫だ。足腰の良い鍛練になるから調度いいんだよ。ほっとけ。」 手を振り払って廊下を駆ける。 「わ、ちょ、土方さん!なんですかぃ!!旦那すいやせん!!また明日!!」 引きずられながらひらひらと沖田が手を振った。 「何をそんなに怒ってるんですかぃ?旦那は良い人ですぜ。」 自転車置場で沖田が呆れたように。 「なんだよ旦那って。別に怒ってねえよ。早く後ろ乗れ。」 「ほら怒ってる。だから部員減るんでさあ。安全運転で頼みますよ?」 鞄を肩に担ぎ、荷台跨がりながら茶化す。 自分が1番分かっている。 俺は何をむきになってるんだ。 坂道で二人分の重みのペダルを踏み締めて。荒い息に苦笑した。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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