10:《漂流教室》







どくり。

信じられないスピードで、脈拍がおかしなリズムを刻むのが分かる。
体中から嫌な汗が吹き出して、べたりとシャツに張り付いた。

まさか。

まさかこんなこと。
嘘だろう?


坂田と総悟が。



キスをしている。












理科室の窓をぼおっと眺めていれば、向かいの校舎の渡り廊下に、ここ数日ですっかり見慣れた栗色が通り過ぎる。

「あいつ…授業サボってんじゃねえか…!」

小さく一人ごちればぴたり、栗色が立ち止まる。
そして一時間目はとうに始まっているというのにゆるりと銀時が現れた。

「あいつは朝練サボって遅刻かよ…全く剣道部はどうなってんだ。」
教室に掲げられた、「文武両道」はどこへやら。

立ち話を始める二人を見ていれば、沸き起こるのは苛立ちばかり。


ああ、俺。こんなキャラだっけ?

思えば女に関してはあまり苦労した記憶も無いし、片思いで女の顔色を伺ったり、一挙一動を気にかけた事もない。

それが今はどうだろう。


「男、だけどな」

初めての片思いが、こんなにも逆境なんて。
小さく笑って、ふと顔を上げて。

気付く。




いつの間に。

壁に手をつく銀時。

銀時の手と、壁の間には。


沖田。



自分だって何度もそういう経験がある。

あの体勢は、恋人同士の。いや、キスをするときのそれ。






ちょっと待てよ。

嘘だろう?






まず湧いたのは、焦燥と絶望。

やっと少し落ち着いて、次に怒り。

怒ったって意味がないことなんて、自分が1番分かっているけれど。



なあ、総悟。


なんで、あいつなんだよ。



せめて女なら。

女なら、諦められたかもしれないのに。


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