11:《夢で逢えたら》



終業のベルが鳴り、さあ部活と勢いよく階段を降りる。
沖田は、授業に出る気は無いので高校に部活のために来ているようなものなのだ。

がららっと部室のドアを開ければ、銀時が。


「旦那ァ!俺は男ですぜぃ!」

「…まだ言ってんのそれ。」
顔を見るなりそう放つ沖田に興味なさ気に返す。

「なんでぃ、それ。あれどうゆう意味でさあ!」
朝の銀時の発言が、まるで理解出来ないうえに。あれだと自分が女々しい奴のような言い方ではないか。

「まあまあ。あんま気にしないで。大丈夫、沖田君男だから。」

「当たり前でさあ。」
そう言って、着替え始めたところでがらり、土方が。


「あ、土方さん。」
沖田が振り向いたものの。

「…おう」
短く返すと、黙々と着替え始めた。

その様子を見て銀時が言う。
「なにあいつ。超不機嫌じゃん。」

「やだやだ。女にでもふられたんですかねえ。」

呑気に笑う沖田をちらっと見て再び床に目を落とした。

(…お前だよ)
舌打ちして、心中呟く。

以前、銀時と朝練の帰りに交わした会話を思い出した。

「ただの隣人だよ。」

そうだったな、俺。ただの隣人だったわ。

隣人があれこれ言う権限、ねえだろ。



















「あれ?土方いないの?」


練習を終え、七時過ぎ。だるそうに一人着替える沖田を見つけ銀時が問う。


「…よく分かんないですけど、なんか部活終わるとともに飛び出してっちゃったんでさあ。でも、携帯、ロッカーに置きっぱなんで多分帰ってくると思うんですけどねぃ。」
と、開けっ放しのロッカーの中に無造作にぽつんと転がる携帯を指した。

「へぇ。じゃあ俺が送るよ。暗くて危ないし。雨降りそうだし。」
土方がいないということを知り、嬉しそうに早口で言い切るが。


「あ−…。でもなんか悪いでさあ。それに多分、すぐ戻って来ると思うんで。」

「いや全然悪くないよ、沖田君なら。」
そう言って、沖田の腰の辺りにすっと手を添える。

銀時がそういう感情を剥き出しで、沖田の眼をじっと見るが。当の沖田は全くなんのことか分からない様子。

(この子どんだけ鈍いんだよ)

心の中で苦笑して。ならば次の段階、と腰から尻にかけて手を滑らせた所で。

「ちょっと!銀さん!!…なにセクハラしてるんですか。もう帰りましょうよ」
志村妙の弟、新八がすぱんと銀時の腕を叩いた。

「いだだ。なんだよ、ぱっつぁん。」
不満げな銀時をよそに。

「…沖田さん、この変態シカトして良いですからね?」
と、やけに申し訳なさそうな表情を浮かべた。

未だ状況をよく理解してない沖田は、口元だけ愛想笑い。

「じゃあね、沖田君。新八うるさいから帰るわ。…土方に変なことされたら俺に言ってね。」
犬にするそれみたいに、頭をくしゃっと撫でた。

「はは、気をつけまさあ。
おつかれさまです、旦那と眼鏡。」
くすぐったそうに微笑んで。

「眼鏡って何だよ!お前眼鏡なめんなよ!」
的確なツッコミを残し、二人が部屋を出た。

二人がいなくなり、急にしんとなった部室を見渡す。
時計の針はもう七時半をさしていた。
確か、この学校は教員の許可がない場合、八時には出なければならない。
だがさすがに後30分待ってればくるだろう、と年季の入ったベンチに寝そべった。

寝ようとはしたものの、ベンチがどうにも寝心地が悪いのと、空腹で眠れない。


(土方さん、先に帰っちゃったのかなあ。)

天井の染みを見ながら想う。


でも、俺。帰る手段無いし。



歩いて帰るには、あまりに遠い。というより帰り道を知らない。
電車を使おうにも、帰りは土方とニケツとばかり思っていたので、交通費を持って来なかった。
もしかしたら、と財布を見たが。残金は120円。

「これじゃあ子供料金でも帰れねえじゃねぃか。」

やはり、さっき銀時に送ってもらえば良かったと、少し後悔。


あ、そういえば。


「ポカリ。」

朝の階段での真剣勝負で勝ち取ったポカリをまだ奢って貰っていない。
それどころか朝練後から土方と一度も言葉を交わしていない事に気付く。

まさか、ポカリを奢るのが嫌で先に帰ったのだろうか。
等と馬鹿げた考えが頭をよぎる。

「いや、ないない。」
いくらなんでも。



待ってれば来るって、絶対。













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