12:《銀河鉄道の夜》




「ありがとうございました!!」

体育館に、声が響き。

それぞれが気怠そうに更衣室へと向かう。
部活後の、熱気と呼ぶには余りにぬるい、独特のむあっとした空気が体育館を包んでいた。

周りはゆるり、喋り歩く中を。
脇目もふらずに走り抜ける。

誰もいない更衣室で一人。
汗ばんだジャージを着替えずに、制服を乱雑にバックに押し込む。
適当に荷物をまとめて学校を飛び出した。

とにかく一刻も早く。
ここから、こいつらから離れたかった。


一心不乱に自転車を漕いだ。


必死になれば。
必死になれば。

忘れられるだろうか?



ああ、無理だ。


一歩漕ぐ度に浮かぶのはやっぱり。




俺にそんな権限ねえよ。
あいつが選んだんだから仕方ねえよ。


そんなこと、分かってんだよ。
















「君、もう8時だから。鍵閉めるよ」

警備員の声で目が覚める。


あり、寝てたのか。


まさか寝てる間に、とロッカーを見れば先程と同じ様に携帯が転がっていて安心する。

「ああ、どうも。もうでまさあ。」
警備員に軽く一礼して、立ち上がる。
人の携帯を勝手に移動させるのは少し躊躇われたが、鍵を閉められたら土方も困るだろう、と土方の携帯を手に取った。

更衣室をでて、真っ暗になった廊下を歩くとぺたり、ぺたり自分の足音だけが響いて。嫌でも一人だということを思い知らされる。

下駄箱で靴を履きかえ、外に出れば。
外の空気は冷たくて、じとっと湿っていた。

すると突然。手の中で震え出す携帯。
背面にディスプレイが無いので、誰からの着信なのかは分からないが。
数十秒震えた後、動かなくなった携帯を見つめる。
こっそり待受を見てやろうかとも考えたが、沖田は携帯を所持したことがないのでなんとなく未知のものに触れるようで怖かった。


誰からだろう。

彼女、かなあ?


そういや、あの人モテそうだし。

彼女の家にでも行ってるのだろうか。
だとしたらもう、今日は学校に戻って来ないかもしれない。

彼女と自分だったらそりゃあ彼女に軍配があがるのは分かる。

だけどそしたら。

あんたを信じた俺は
「何だったって言うんでぃ。」

足元の石を、蹴飛ばした。


















「十四郎、帰ってるの?」


母親の声。


「あぁ。」
短く返す時は、たいてい不機嫌な時。

「何怒ってんの。…あら、総悟君は?」
母親が顔をしかめて部屋を覗く。

「知らない。入ってくんじゃねえよ。」
母親を追い払うように睨むが母は動じない。

「総悟君。今日ご飯、うちで食べるのかしら。」

「…知らねえよ。」

「知らない訳ないじゃない。」

「知らねえもんは知らねえんだよ。坂田の家とかじゃねえの。」

「何よそれ。総悟君に電話してみなさいよ。」

「あいつ携帯持ってねえよ。」

反論して、何気なくポケットに手を入れた瞬間気付く。


ああもう、最悪。


どっかに携帯忘れてる。






念のため、家からかけるが反応は無い。

(…学校だ。)

焦って出て来たから、多分置いて来たのだ。

時計を見れば、八時過ぎ。

飯食ったら取りに行くか。

なんて呑気なことを考えていた。
















ふわり、冷たい春風が吹き抜けて。
体温を奪われて、ぶるっと震える。
はあ、と息を吐けばその息は白いのに。
服装は春仕様ときた。


「さみぃ。」


言葉が白い息と共に消える。


再び手の中の携帯が震え出す。
今度は数秒。

かけてくる相手を思うと、酷く悲しくなる。


馬鹿みてぇ。



俺は心のどこかで確かに。
大事にされてると思っていたのだから。





ぽたり。


降り出したのは、雨と。


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