13:《GO FOR IT》


ぽたり、ぽたり。
小雨だった雨は。

いつの間に大粒に。


「面倒臭ぇな。」


ため息をついて、立ち上がる。

雨ならば、グラウンドが使えないのでバスケ部が体育館を使う。だから剣道部の朝練は中止。
それを一応連絡網で回さなければならない。

正直、携帯は明日で良いやと思っていた土方には厄介だ。
携帯に部員の番号が入っているので、雨の中取りに行かなければならなくなってしまった。


「だりぃ。」

零れるのは、弱音ばかりで嫌になる。

重い足取りで傘を取りに。

時刻は九時半。自転車が使えないとは言え、普通に行けば余裕で十一時からのドラマに間に合う。

ああ、でも。
「今の時間、電車混んでんだよなあ」

こぼれたのは、また弱音。


















降り出した雨は容赦無く体温を奪う。

どっかで雨宿りでも。ああだけど、ここから動いたら。

待たなきゃ、待たなきゃと。半ば自己暗示のように。

手の中の携帯を何度も強く握りしめ、意地になって立ちすくす。

唇を噛んで、土方の来るであろう方向をただただ見つめた。

来るって。

来るって。

あの人なら、来るって。


そう心中唱えて数秒後。
髪からぽたり、雫が落ちて。

寒さからがくっと膝が震えた拍子にしゃがみ込む。
出来る限り堪えていた涙がじわっと溢れ出し、それを手の甲で拭った。


もうどうにでもなれってんだ。

来なかったら、いや、今頃来たって。

「…ぶん殴ってやる。」

声が、震えた。


















電車を降りて、駅のホームに立つ。
車内の生暖かい空気と打って変わってひんやりとした冷たいそれに、身を竦めた。

「さみぃ…」
やっぱり、来なきゃ良かった。

本日何度目か分からない弱音。

傘を持っていない左手をポケットに突っこんで、足早に歩いた。

何分か歩けば校門が見えてきて。


「あ?」

その光景に思わず顔を歪めた。

校門の前に、この雨の中、傘も差さずにうずくまる誰か。


しかも。
「うちの制服じゃねえか。」

ただの頭のおかしい奴か、失恋でもしたのか。
どっちにしても面倒なことになりそうだ、とため息をつく。

しかし近づいてみれば、嫌に見覚えのある。栗色の。


もしかして。

忘れようとしていたはずの今日の朝の光景が脳裏に浮かんで息苦しくなる。

まさか。

いや、だとしたら何故ここに。

傘は?坂田は?それより、部活帰りにしては遅すぎやしないか?

次々に沸き起こる疑問。



だけど、それを考えるより早く。

駆け出していた。



「総悟!!!!」


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