14:《YOUTH》



「総悟!!!」

名を呼ばれて顔をあげる。
自分のことを「総悟」と呼ぶ者なんて、近藤か、土方くらい。
そして、今は恐らく後者。

街灯に照らされて、待ち侘びたそれがこちらに駆け寄って来る。

(畜生、暖かそうなダウン着やがって。)

そう心の中で毒づいた瞬間。

目の前のそれは、傘を投げ捨て。
沖田をぎゅうっと抱きしめた。

ああ、ちょっとこれは不意打ちかも。

かじかんだ指から携帯がすとんと落ちた。


雨脚はさらに強まるのに、傘すら差さずに沖田から離れない。

「…濡れ、やすぜ」

そう言ったのに、更に強く抱きしめてくる土方に顔を歪める。

もうこれ以上濡れようのない自分はさておき。傘があるのにささないのは如何なものか、と。



それにしても。

殴ってやろうと思ったのに。
殴ってやりたいのに。

顔を見て、抱きしめられて。

怒りよりも先に。

こんなにも安心している自分は、どうなんだか。


湿っぽい土方のダウンに、顔を押し付けて。

「遅すぎ。」

涙声がばれないように手短に。だけど精一杯の悪態をつくが。

反応は無く、代わりに抱きしめる力が緩んで片方の手がそこに転がる傘を引き寄せた。
肩に傘をかけて、沖田と向き合う。

二人で一つの傘にいるから、ちょっと気恥ずかしくなるくらい至近距離。
耐え兼ねて沖田がずずっと後ずさると

「濡れるぞ。」
と袖をぐいっと引き寄せた。


何を今さら。

ゆるりと睨みつけるが土方はそれをものともせずに。


「お前何してんだよ。風邪引いたらどうすんだ。」

さらっと言い放った。



ちょっと待て、この発言。

ここまで真面目に勘違いされると、かえって笑える。

「あんた…誰のせいだと思ってるんですかぃ?」
誰が好んでこんな雨の中。

「あ?」


あんたを。

「あんたを待ってたんでさぁ」

なんだか無性に虚しくなって目を逸らす。
悲し過ぎやしないだろうか、こんなこと。

はは、と口元は力無く歪めてみたものの。ぽろり、零れるのは涙。
俺、馬鹿みてぇじゃねぃか。



涙をぼろぼろ流す沖田に目に見えて狼狽する。
「なんで。」

「なんで、俺を待ってたんだよ」


なんでって。そんなの。
理由が必要かよ?

「だって。だって一緒に帰ることになってたじゃないですか俺達!理由がなくちゃいけねえんですか!」
もう自分でも何が何だか分からない。感情のままに喚き散らせば、土方が目を見開いてこちらを見た。

「俺ぁ、俺は今まで、ずっと一人だったから…どこ行っても馴染めなかったから。こういうのが。
あんたにとっちゃくだらねえかもしれないけど。」

こういう、友達ごっこでもいいから、

「嬉しかったんでさあ」

小さく、零した。


「それは…」
と、土方はぐむっと喉につかえたみたいな顔をして。

「じゃあ、坂田でもいいじゃねえか。
坂田が、いるじゃねえか。」
などと続けるから。
沖田はがくっと絶望した。




「ああ、なるほどね。俺は、邪魔者なんですねぃ」
涙を拭って震える声で。


昔からそうだった。
たらい回しにされてきた。
どうせ、俺は、厄介者だ。

土方さんだって、例外じゃないんだ。
分かってたけど。
でもどこかで違うと信じていた自分が。



「なんか色々勘違いして、すいやせんでした。」
土方の手を払いのければ、

「待てよ。」
とその手を掴まれた。

「離してくだせぇ。」

「離さねえよ。どこ行くんだよ」

「やめてくだせえよ、そういうの。もう、いいんで。うざったい。」

「うざったいってなんだよ。別に俺はお前を厄介者だなんて思ってねえよ。ただ…」
とここまで言って口ごもる。

「お前と、坂田が。」

「うん」


「あれだろう?」




は?

あれって、なんだよ。

「あれだよ。アレ。その…わかんだろお前。」

「わかんねえよ。…こそあど言葉はアルツハイマーの始まりですぜ。」

「馬鹿野郎、ちげーよ。その…付き、つ、」


付き合ってる、だろ?




微妙に顔を赤らめながらぼそっと言うから。

どうやらギャグじゃないらしい。

ああ、この人は。

何を言っているんだろう。


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