「土方さん、あんた。頭大丈夫ですかぃ?」 さっきの涙声はどこへやら。 至極真面目かつ落ち着いた口調で問われてしまえばもうどうしようもない。 「…お前よりはマシだと自負してるけどな。」 「いやいや。冗談は存在だけにしてくだせぇよ。 いいですか、俺は男。旦那も男ですぜ?」 「ねえ、何気なく存在否定すんのやめてくんない? …そんなこと分かってる。だけどお前…」 「俺?」 「坂田と、キス。」 「は?」 「…してんの、見たんだよ!」 至近距離なのに必要以上に大声をだしてしまい、沖田の身体がびくっと震えた。 「何を言ってるんでさぁ。さっきから」 沖田の顔が歪む。 「付き合ってんだろ?別にひいたりしねえよ。」 こうなったら、と自棄になっている自分は多分、酷く間抜けなんだ。 「だから!付き合って無いって!!」 耐え兼ねた沖田が噛み付くように放つ。 「…じゃあなんだよ、お前は付き合ってない奴とキスすんのかよ?」 「キスもしてねえでさあ!」 「でも俺は見たんだよ。」 「何を。」 「何をって。」 そりゃあ、キスしてんのを。 そう告げてやれば、沖田が口元を吊り上げて。 「もしかして、あんた。」 「俺と、旦那のために。 身を引いたつもりですかぃ?」 と、不自然に吊り上げた口角を震えさせながら不快極まりないといった表情を見せるから。 本来感謝されるべき行動に何故こんなに険しい顔をされねばならないのかと土方も顔を歪めた。 身を引いた、か。 「身を引いた」というには余りにお粗末なそれ。「逃げ出した」の方が的確なんだろうけど。 「まあ、そんなところだな。」 土方がそう言えば 「…じゃああれですねぃ。俺は」 盛大にため息をつく。 「つまり、あんたの勘違いと妄想のお陰で何時間も雨の中待ちぼうけって訳でさぁ。」 「てめえ、なんだよその言い方は。俺は確かに、」 「何を見たのか知りやせんが俺は何もしてませんよ。なんなら旦那に電話でもしてみたらどうです?」 ここまで言われてしまうと、先刻まで嫌に鮮明だったあのシーンが急に霞んだ。 ああ、だとしたら。 俺はなんてことを。 なんで一人なんだよ。 なんで泣いてんだよ。 俺ならもっと、幸せに出来るのに。 なんであいつを選んだんだよ。 そんな風に思っていたのは紛れも無くさっきまでの、俺。 馬鹿みてぇ。 一人にしてたのも。 泣かせてたのも。 俺じゃねえか。 「土方さん。」 沈黙を破って沖田が。 「あんた、酷ぇ顔。」 指を差して。にやっと笑った。 「もう気にしちゃいませんよ。」 「そんなことより。早く、帰りやしょう。」 くだらないことかも知れないけれど。 それを待っていたんだから。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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