16:《青春時代》


大分小雨になった中。
ぐしょ濡れの沖田をおぶって歩く。
これじゃあ電車には乗れないだろう、という訳で徒歩だと一時間以上かかる道のりを。


「なあ総悟。本当に悪か、」

「土方さん、俺はもう気にして無いでさぁ。」

土方の言葉を遮るように沖田が。

「だからもう謝るのやめてくだせぇ。あんたがそんなだと俺も笑えねえや。」

「ハーゲンダッツとポカリと鯛焼きとカップヌードルと肉まんとおでんとみたらし団子とチロルチョコ一箱だけ買ってくれればもう、俺は満足ですから。」

「…いや、満足過ぎんだろお前。」

「今日は帰んねえと風邪引くから、明日の帰りな。」

「まじかよ土方太っ腹ぁ」

「まあな。そして呼び捨てにすんな。」

「ハーゲンダッツとポカリと鯛焼きとカップヌードルと肉まんとおでんとみたらし団子とチロルチョコ一箱ですよ?
忘れないでくださいね明日。」

「お前その記憶力、なんか他の事に活かせよ。」

そんなやりとりをしながら、家に帰ったのは12時頃で。

一人、飲み潰れてソファで死んだように眠る母親を尻目に沖田を速攻で風呂にいれさせた。
濡れてしまった二人分の衣服を乾燥機にぶち込んで暖房をつければ。長かった一日の疲れがどっと溢れた。

「あ、連絡網。」
回して、ねえや。

そう気付いて探ったポケットの携帯は、嫌に濡れていて。

もしかして、と電源ボタンを押す。が、何秒押したって何度押したって画面は真っ暗なまま。

「畜生…やられた。」
まだ三ヶ月と使っていないのに。

この時間に電話で連絡は出来ないし、メールで言おうにも部員のアドレスはこの携帯の中。

あ、坂田がいんじゃねえか。

部長と副部長は携帯番号も連絡網に載せていた気がする。
銀時なら別に、今電話したって良いだろう。

坂田だって腐っても副部長だし。あいつから皆にメールして貰えばいいや、と子機を手に取った。
土方家の番号だと、まず居留守を使うので非通知で。
規則正しい電子音が数回。
後にやる気のない声。

「…誰。」

「剣道部の土方だけど、」

そこまで聞いてプツン、と電話が切れる。

「ふざけんじゃねえよ…」
あいつ、俺の名前を聞いた瞬間切りやがって。

しかしここで諦めたら試合終了、とばかりにすぐさまリダイヤル。今度は長い電子音。

(あの野郎、居留守使ってやがる…)

ついに根負けしたらしい銀時が電話に出た。
「なんだよてめえ。用も無いのにかけてくんじゃねえよ。」

「誰が用も無いのにお前なんかに電話かけるかよ。」

「何だよ。」

「携帯壊れたから、皆に連絡網メールしといて欲しいんだけど。」

「朝練中止?皆知ってんだろそんなこと。」

「でも回さなきゃ駄目なんだよ。」

「…しゃーねえな、分かったよ。じゃあ沖田君に代わって。」

「無理。あいつ今風呂。」
無意識に声が低くなる。

「え−。意味ねえじゃん。」

「なんだよてめぇ。用があんなら俺が伝えといてやろうか?」
にやっと笑いながら言えば。

「う−わ、まじ死んどけよ土方。頼むからこの世から消えてくれよー」

「…お前総悟追っかけ回して変なことすんじゃねえぞ」

「してねえよ馬鹿。なんだ彼氏気取りかこのやろう。」
してない、その言葉に安堵してる自分は本当に女々しいんだろうけど。

「別に彼氏気取りとかじゃねえよ。でも…」


でも?



でも、俺も総悟が、



好きだから。












「知らねえよ、そんなこと。」


その告白に、何を思ったのかは分からないけれど。銀時は小さく笑って。
ぷつり、電話が切れた。


受話器を置いて、息を吐く。

ああ、これって宣戦布告?

だけど何でだろう

負ける気はしねえんだ。


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