「土方−!!風呂空いたぜぃ!」 ばたばたと濡れた髪もそのままにリビングに駆け込む。 ちゃんと乾かしてから来いなどと土方から罵声の一つや二つ、飛んで来そうなものだが、意外にも部屋の静寂は保たれていた。 「…あり、寝てるし。」 雨で汚れた服のまま、携帯片手にカーペットに体を投げ出していた。 すぐ近くには、グラス片手に爆睡している彼の母がいて、妙な所でやはり親子なのだと実感させられる。 「だらし無えなあ。口ぐらい閉じろよ。」 へらへら笑って、胸の上に馬乗りになる。 「土方さ−ん。風呂空きやしたよ。」 頬を摘んでみるが起きる気配は無い。 「…あ。」 名案を思い付き、にやりと口の端を歪める。 自慢じゃないが、この方法であの近藤を目覚めさせたこともある、お得意の。 「…頭突き入りま−す。3、2、1……」 0、と心の中で呟いて、頭を一気に振り下ろす。 がつん、という頭蓋骨と頭蓋骨の衝突音の後、額に広がるほんの少しの痛みと熱。 結構上手く入った。これなら起きるはず、とほくそ笑み頭を上げた。 が、土方は眠り続けている。 「……。」 もしかして、さっきの頭突きで死んでしまったのだろうか。 等と馬鹿げた考えが頭を過ぎる。 何となしにぺしりと肌を叩いてみたら、自分よりかは幾分ひんやりとしていた。 「…土方さん」 もう一度頬を摘んだものの、変化は無い。 「あ、呼吸。」 いつかの理科の時間を思い出し、鼻と口に耳を近付けた。 (良かった、息してる) 安堵して、小さく口元を緩めた時。 「何してんだよ。」 眠気からか、更に目つきを悪くさせた土方がこちらを見ている。 「…生きてた。」 「たりめーだろ。誰が頭突きぐらいで死ぬか。」 そう言って、寝癖の髪をぼりぼり掻いた。 「なんだ、起きてたの。」 「起きるに決まってんだろ、あんなの。」 「リアクション取ってくだせえよ。つまんねえ。」 「…重い。」 ああ、そういえば。 土方の腹の辺りに乗ったままだった。 「やだ、降りたくない。」 にやっと笑ったら、髪からぱたりと水滴が落ちた。 「…いいから、髪乾かして来い。」 しばらくのにらみ合いの後、痺れを切らした土方が腹筋するみたいに起き上がる。 「風邪引くだろ馬鹿。」 沖田の肩の上のタオルを掴むと、濡れた髪をがしがしと拭いた。 沖田の方は、されるがままに目を閉じる。 やっぱり、体からは煙草の匂い。でもなんだか最近嫌いじゃない、この匂い。 どこからかドライヤーが出てきて、温風が髪を包んだ。 「熱い。」 「うるせえ、じっとしてろ。」 家族の記憶なんて殆ど無いから、ここまで誰かに甘えたのは初めてかもしれない。 (こんな毎日に慣れてしまったら。 もし土方さんが突然俺の前から消えたら。) 怖くなって、小さく身をよじる。 「動くなって馬鹿。」 優しく髪を撫でる、その手を、安定した幸せを知らない俺はいまいち信用できない。 だけど。 少なくとも今は。 どうか、このまま。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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