17:《NO FUTURE NO CRY》




「土方−!!風呂空いたぜぃ!」



ばたばたと濡れた髪もそのままにリビングに駆け込む。


ちゃんと乾かしてから来いなどと土方から罵声の一つや二つ、飛んで来そうなものだが、意外にも部屋の静寂は保たれていた。



「…あり、寝てるし。」



雨で汚れた服のまま、携帯片手にカーペットに体を投げ出していた。
すぐ近くには、グラス片手に爆睡している彼の母がいて、妙な所でやはり親子なのだと実感させられる。


「だらし無えなあ。口ぐらい閉じろよ。」

へらへら笑って、胸の上に馬乗りになる。





「土方さ−ん。風呂空きやしたよ。」


頬を摘んでみるが起きる気配は無い。



「…あ。」

名案を思い付き、にやりと口の端を歪める。

自慢じゃないが、この方法であの近藤を目覚めさせたこともある、お得意の。



「…頭突き入りま−す。3、2、1……」


0、と心の中で呟いて、頭を一気に振り下ろす。


がつん、という頭蓋骨と頭蓋骨の衝突音の後、額に広がるほんの少しの痛みと熱。

結構上手く入った。これなら起きるはず、とほくそ笑み頭を上げた。
が、土方は眠り続けている。


「……。」




もしかして、さっきの頭突きで死んでしまったのだろうか。


等と馬鹿げた考えが頭を過ぎる。

何となしにぺしりと肌を叩いてみたら、自分よりかは幾分ひんやりとしていた。


「…土方さん」

もう一度頬を摘んだものの、変化は無い。

「あ、呼吸。」

いつかの理科の時間を思い出し、鼻と口に耳を近付けた。


(良かった、息してる)


安堵して、小さく口元を緩めた時。

「何してんだよ。」




眠気からか、更に目つきを悪くさせた土方がこちらを見ている。


「…生きてた。」


「たりめーだろ。誰が頭突きぐらいで死ぬか。」
そう言って、寝癖の髪をぼりぼり掻いた。


「なんだ、起きてたの。」

「起きるに決まってんだろ、あんなの。」

「リアクション取ってくだせえよ。つまんねえ。」


「…重い。」

ああ、そういえば。

土方の腹の辺りに乗ったままだった。


「やだ、降りたくない。」
にやっと笑ったら、髪からぱたりと水滴が落ちた。

「…いいから、髪乾かして来い。」


しばらくのにらみ合いの後、痺れを切らした土方が腹筋するみたいに起き上がる。

「風邪引くだろ馬鹿。」

沖田の肩の上のタオルを掴むと、濡れた髪をがしがしと拭いた。

沖田の方は、されるがままに目を閉じる。

やっぱり、体からは煙草の匂い。でもなんだか最近嫌いじゃない、この匂い。

どこからかドライヤーが出てきて、温風が髪を包んだ。

「熱い。」

「うるせえ、じっとしてろ。」


家族の記憶なんて殆ど無いから、ここまで誰かに甘えたのは初めてかもしれない。

(こんな毎日に慣れてしまったら。
もし土方さんが突然俺の前から消えたら。)


怖くなって、小さく身をよじる。


「動くなって馬鹿。」

優しく髪を撫でる、その手を、安定した幸せを知らない俺はいまいち信用できない。

だけど。
少なくとも今は。




どうか、このまま。


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